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社外取締役インタビュー 髙岡取締役

髙岡美佳
社外取締役

大阪市立大学経済研究所助教授を経て、立教大学経営学部教授。共同印刷㈱、㈱ファンケル、㈱ニップンの社外取締役を兼務。2018年6月に当社取締役に就任。

髙岡美佳 社外取締役

髙岡取締役にお伺いします。
2024年3月期の取締役会を振り返っての総括を教えてください。

 日本の運輸業界における中長期的な課題は2つです。一つは、国内において少子高齢化にともない物流ニーズが縮小し、トラック運転業務に従事する労働力も恒常的に不足すること、つまり需要と供給の両方が小さくなり、まさにマーケット(市場)が縮小するであろうことです。もう一つは、その減少分を補う海外事業が育成できていないことです。こうした課題を踏まえ、今期の取締役会では、成長戦略が主な論点となりました。持続的成長を実現するためには、今どこに投資すべきなのか。物流品質を保つためのドライバーへの還元はもちろんのこと、M&Aや外部企業とのアライアンスという選択肢も排除せず、どこで付加価値を生むかなど中長期的な目線での議論ができたと考えています。

当社の財務資本戦略の開示、検討状況についての評価についてお聞かせください。

 SGホールディングスでは、各案件の投資判断において、ハードルレートを設けるなど資本の効率的な活用が十分に意識されています。今後は、案件単位から全社のポートフォリオマネジメントへ、より資本コストを意識した経営を行うことでさらなる成長が望めると考えています。例えば、事業別の投下資本と利益のバランスを意識することで、限られた資源をどの事業に投資すべきか、追加投資をすべき事業・整理すべき事業が見えてくるでしょう。企業価値を最大化し、持続的な成長を実現するために、今後もよりこの視点を意識した発言をしていきたいと考えています。

 キャッシュアロケーションの方針については、より詳しく、可能な限り早いタイミングで会社側の考え方をステークホルダーの皆さまにお示しするのが良いと考えています。2024年3月期末の配当方針は、「連結配当性向30%以上かつ、前事業年度からの増配を目指す」としていたものの、インフレ等に伴い事業環境が厳しくなる中で将来の企業価値をあげるための成長投資やドライバーの方々への配分を強化するなど、全体のキャッシュアロケーションを考慮した結果、1株当たり配当金は前事業年度の据え置き(年間配当:51円)となりました。増配を目指すことは株主の皆さまとの約束ですので、その状況が変化したのであれば、株主の皆さまへの速やかな説明等のコミュニケーションが必要です。その点については、今後の課題であると考えています。

当社の2024年問題への対応をどのように評価されていますか?

 今年5月に、流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法(物流二法)の改正案が公布されました。今後、発着荷主は荷待ち・荷役時間の短縮や貨物積載率向上に向けた持続的な改善を求められ、元請運送事業者についても実運送管理面でさまざまな努力が求められることになる見込みです。

 SGホールディングスグループは、自社およびパートナー企業のドライバーの働きやすい環境を整備することに最大限の力を注いでいると評価しています。常々、取締役会でもそのような発言がなされます。賃金を上げること、ハラスメントなどが起きない組織を作り上げること、そして、成長や喜びを感じる職場にすることがまず当社にとっての2024年問題への対応策だと考えます。

 それに加えて、SGホールディングスグループは元請企業の責任として、パートナー企業が不当に扱われることのない取引を徹底すべく体制を整えています。すでに適正取引促進会の開催や、相談窓口を設置し、適正な価格で取引をすることが心掛けられています。

 一方で当社にとっては2024年問題への対応はコストアップ要因となります。そのため、適正運賃収受の取り組みなども全グループで意識して取り組まれています。上昇するコストを吸収する取り組みとして、物流の生産性向上への取り組みも進めています。短期的な取り組みとしてはXフロンティア稼働によるさらなる生産性の向上やスワップボディ車の導入等、より長期的な目線での投資としてDXが推進されています。現在、実証実験段階にある荷積みロボットの成果や、今後期待されているトラックの自動運転も実用化までは時間がかかりますが重要な取り組みです。

 しかしながら、効率化によるコスト吸収も限界はあります。やはり本質的には、荷主から適正な運賃を頂くとともに、成長分野を開拓することでトップラインを拡大し続けることこそが最も重要です。

一方で、2024年問題は当社にとっては機会として捉えられる側面もありますが、どうお考えでしょうか?

 おっしゃる通りだと思います。2030年で約34%輸送力が足りなくなる、労働者が不足してドライバーの賃金も上がり続けるという日本全体で捉えると大変深刻な状況であり、それにより一番不利益を被るのはお客さま(荷主)です。今のリードタイムで自社商品が運べなくなるかもしれない、上がる物流費を消費者に転嫁できるかわからないなど、大きな不安を抱えているはずです。聞くところによると、数十年ぶりに生産や物流拠点の見直しを考えているメーカーが非常に多いようです。

 それを解決できるのが、当社のGOALであると思います。今も一部実施していますが、物を運ぶだけでなく、工場や倉庫のロケーション選定、在庫管理、リードタイム計算、出荷のルーティング、利用する輸送手段等、サプライチェーン全体を見て最適な提案をすることが今後さらに求められます。GOALが包括的なソリューション提案を積極的に行うことで、SGホールディングスにとってさらなるビジネスチャンスが広がっていくことを期待しています。

当社の人的資本戦略の課題認識についてお聞かせください。

 輸送を支えるドライバーの皆さんはもちろん、SGホールディングスの経営を担う中核人材の育成も今後の成長を左右する課題として認識しています。「次世代リーダー研修」や、「次世代経営者育成プログラム」などの教育システムも実施されていますし、海外人材の研修プログラムも始まりました。成長分野におけるリーダー教育も急ピッチで進める必要があります。

 ダイバーシティについては、2011年から積極的に取り組んできた歴史があり、「D&I AWARD」において最上位ランクに何度も認定されるなど定評があります。女性を含めた多様な人材の活用に関して意欲的な企業風土は素晴らしいと感じます。

 個人的には、栗和田会長の訓示で印象に残っている言葉が、「その身正しければ、令せずして行わる。その身正しからざれば、令すといえども従わず」という論語の一説で、「上に立つ者の行いが正しければ、命令しなくてもことが行われて、逆に上に立つ者の行いが正しくないと、いくら命令しても従業員はついてこない」という意味です。組織の中でそれぞれのポジションの人が、自らの役割は何だろうかと自分の頭で考え役割を果たすことは、組織力を強化するための根幹になるため、まさに人的資本の考え方だと感じた記憶があります。

 この論語のように、中核人材に正しい行いをしてもらうために、専門知識だけでなく、部下一人一人の顔を見て気持ちを汲み取り、その背後にいる家族のことも考えてマネジメントを行う能力を身につけていただく必要があります。秋山取締役もコミュニケーション能力向上について言及されておりますが、管理職としてのスキルや視座を高める研修はぜひ積極的に行っていただきたいです。上司が自身の役割をきちんと果たすことで部下も自発的に努力し、切磋琢磨し合える良い企業風土が醸成されると思います。

最後に、今年1年はどのような年にしたいと考えていますか?

 今年は中期経営計画の最終年度ですが、業績面では進捗に大きな遅れが出ており、当社グループを取り巻く環境は非常に厳しい状況です。今年1年は、次期中期経営計画につながる芽をきちんと残していきたいと考えています。

 先に触れたように、物流の生産性向上には効率化だけでなくトップラインを上げる必要があり、国内外の成長分野を開拓する必要性を感じています。国内においては低温物流や付加価値の高い医薬品や危険物の物流、海外においてもドメインをしっかりと見極めたうえで成長分野には積極的に投資し、常に資本コストとの見合いを考えながらリターンを得ていく基礎を築きたいと考えます。

 会社はお客さま、株主、従業員、パートナー企業、地域社会、関係省庁など、いろいろな人たちの思いを汲んで経営しています。ステークホルダーの皆さまの声に耳を傾けることで気づく課題や自分たちでは気づかなかった強みがわかるかもしれません。これからも対話を大切にし、変革し続ける組織でありたいです。

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