1st
MISSION
ある日出島は、倉庫運用を任されているアパレル企業から、店舗での商品管理に『RFID』を導入するという話を聞いた。『RFID』は、多くの企業がこぞって活用方法を模索している技術だったが、参考にできるほどの成功事例はなかった。
※『RFID』:在庫、価格情報等をICチップによって管理する技術。従来のバーコードに比べデータの読み取り範囲が広く、大量のデータを一度に処理できるため、情報を一つ一つスキャナーで読み取らずとも、タグが付けられた製品を読み取り機器が設置された特定の場所に置くだけで、製品情報を読み取ることができる。主に、小売店に導入され店舗でのレジ作業の効率化などが図られている。
出島の頭に浮かんだのは、『RFID』のより大きい導入効果が期待できる案だった。店舗だけでなく倉庫内での入出荷作業、在庫管理にも『RFID』を活用してはどうかとクライアントに持ちかけたのだ。クライアントが希望する期日まで時間がないことは、出島は知っていたが、価値提供の最大化を目指す出島にとって、この案を進めることは必然だった。
プロジェクトは、倉庫の設計を行ったロジスティクスエンジニア(以下LE)、協力関係にあるシステム会社、クライアントとともに動き出した。
2nd
MISSION
全国の店舗やECサイトで大量の商品を扱うアパレル業界では、商品管理がビジネスの明暗をわける。倉庫に『RFID』を導入するためには、非常に高い精度でタグを読み取る必要があった。試しに取り寄せた読み取り機器は、メーカーによれば97%の精度だという。チームの大半はこの水準に満足し、この機器がそのまま採用されるかに思えた。
しかし、出島とLEは疑問を呈した。「97%でいいのか。目指すは100%だろう。」数字上ではわずかに思える3%だが、100万点の商品であれば3万点が存在しないことになる。
クライアントの大切な商品を預かるからには、認めるわけにはいかない。3%の壁を越えるのだ。日本のみならず海外にも目を向けながら、出島たちは精度100%の機器を粘り強く探し続け、どうにか見つけ出すことができた。
しかし、今度は読み取り方法という新たな問題が立ちはだかった。機器メーカーは、商品の入った箱をいくつも重ね一気に読み取る方法が効率的だと推奨するが、果たして本当にそうなのか。出島は経験を頼りに最適解を探った。期日は1カ月半後に迫っていた。
BEHIND
THE SCENES
BEHIND
THE SCENES
プロジェクトの中で最も青ざめたのは、完成したシステムをクライアントの経営層にお披露目したときのこと。前日までの機器の読み取り精度は100%でしたが、その日は70%ほどしか反応しなかったのです。
読み取り方法に問題があると思った私は、エラーの原因を推察し新しい方法をその場で考案。すると、いつも通り読み取られました。これは、商品の生地が薄くタグ同士が干渉することで起きた現象でした。そのため、箱の向きを変え電波とタグが垂直に当たるようにすることで問題が解消したのです。一瞬頭が真っ白になりましたが、何度も検証を重ね、『RFID』の特性を理解していたからこそ適切な対処ができました。それにしても、肝を冷やしましたね。
NEXT
MISSION
業務を肌で知る出島は、読み取り方法を模索するうえでリスクマネジメントの観点も重視した。メーカーが推奨する方法を鵜呑みにするのではなく、自分たちの現場にはどんなやり方が合うのか。
出島の視点は一貫して現場に基づいており、実際に作業にあたるパートナー社員にも意見を求めながら、システムに新たな技術を採用するなど、さまざまな試みを加え、理論だけでは得られない最適解を探った。
そうして出島たちの努力が結実したシステムは、無事に期日内の完成を迎えた。検品の作業負担が4割まで低減できることが実証され、クライアントの親会社をはじめ、グループ全体に展開されることが決定した。
さらに副次的な効果として、作業の簡略化により高齢者や障害を持つ人の雇用機会も創出することが可能となった。出島たちの取り組みは、持続可能な社会をつくる挑戦でもあったのだ。