SGH

社外取締役鼎談

秋山真人 社外取締役

㈱ニチレイ、㈱ニチレイロジグループ本社、㈱ロジスティクス・ネットワーク、東京団地冷蔵㈱で勤務。東京冷蔵倉庫協会、(一社)日本冷蔵倉庫協会を経て、2020年6月に当社取締役に就任。

髙岡美佳 社外取締役

大阪市立大学経済研究所助教授を経て、立教大学経営学部教授。㈱モスフードサービス、共同印刷㈱、㈱ファンケルの社外取締役を兼務。2018年6月に当社取締役に就任。

鷺坂長美 社外取締役

自治省、消防庁、環境省を経て、早稲田大学 非常勤講師、小澤英明法律事務所 顧問。認定NPO法人 救急ヘリ病院ネットワーク 理事長、(公財)埼玉県国際交流協会 理事長、(公財)全国市町村研修財団 理事を兼務。2019年6月に当社取締役に就任。

物流が抱える課題、グループが抱える
さまざまな課題の解決に向けて、
新たな経営体制で、新たな道を拓いていく

髙岡社外取締役、鷺坂社外取締役、秋山社外取締役の3名に、
SGホールディングスのガバナンスや経営戦略、新経営体制での課題と期待について語り合っていただきました。

2023年3月期の振り返り ⇒昨年の鼎談はこちら

SGホールディングスグループの2023年3月期の取り組みを振り返ってください。

髙岡美佳 社外取締役

髙岡:当期の取り組みで評価したいのは、直面する経営環境の変化への対応と、長期的な経営課題に応えていくための種まきといった、短期的課題と中長期的課題の双方に取り組むことができた点です。昨年私は、ビジョンや強い意志を持って経営を進めていくことの必要性と、新たな事業を生み出すオープンイノベーションの重要性について触れましたが、この2点を意識した経営が行われたのが、まさに2023年3月期だったと思います。

 為替相場で円安が継続し、燃料費が高止まりするなど、目の前でドラスティックに変わる外部環境の変化への対応に追われた1年でした。しかし、経営陣は、ドライバーをはじめとする働き手がやりがいを持って働けるよう適正運賃の収受に取り組み、会社の利益と働き手の収入アップにつなげました。また、長期的な視点での取り組みも決して疎かにはしていません。その好例と言えるのが、「SG HOLDINGS HIKYAKULABO」です。これは、社会の発展につながるような、未来志向の新たな事業やサービスの創出を、オープンイノベーションによってグループ全体で取り組むものです。社内でビジネスコンペを実施する企業は多くありますが、コンペを社外含めて実施する当社グループの取り組みは斬新で、次世代のビジネスにつながる動きが見えてきています。

 中期経営計画(以下、中計)の3年間の中で進めていく打ち手と、長期ビジョンの実現のための打ち手とで、ヒト・モノ・カネの資源配分を分けて考えることが重要です。企業は永続しなければなりませんから、「今」できることを精一杯行うことだけでなく、強い意志を持って、「未来」に向けた経営が行われていることはとても高く評価できます。

鷺坂:髙岡さんがおっしゃったように、当期は大きな事業環境の変化に晒されました。これを受けて、執行面では難しい舵取りを迫られたことが容易に推察できます。こうした難しい経営環境の中でも、長期ビジョンを見据え、中計に掲げる施策を着実に進めようとする姿勢が非常に良かったと思います。私が特に評価しているのは、パートナーと共に考え、行動し、難局を乗り越えていこうとする強い姿勢です。目の前にある課題を乗り越えていくうえで、特に重要なことだと思います。

 この1年、長期的な視点を持った取り組みで私が注視してきたのは次の2点です。1つはグローバル・ガバナンスの強化です。ここ数年で、eコマース(EC)需要が高まる中で海外のグループ会社が大きな収益を上げるようになっており、海外企業との協業やガバナンスの強化の重要度が高まっています。ここについては、経営陣は足元においても、高い意識を持って臨んでいます。もう1つは、SDGsへの対応を含めた長期的な社会課題解決への取り組みです。特に環境面での取り組みは、これまでも佐川急便を中心に先進的な対応をしてきましたが、こうした課題に対しても問題なく対応できていると思います。目先の対応だけでなく、長期的なビジョンを踏まえた対応がなされてきたという印象を強く持っています。

秋山:事業環境については、確かにご指摘のとおり厳しい状況でした。日本企業全体を見ると、業種によっては円安の恩恵を受けて好業績をあげた企業もありますが、当社グループに限らず、総じて厳しい状況に置かれて利益額が減少した企業が多かったように思います。取締役会に出席していて印象深かったのが、短期業績に対して一喜一憂しない雰囲気が、常にあることです。「大変だ、大変だ」と大騒ぎする企業が多い中で、当社グループが常に冷静な目を持って対処していく姿勢が崩れなかった背景には、やはりお2人がおっしゃったように、長期的な視点を持って積み上げてきたものがあることを、経営陣が強く認識できているからではないかと思います。

 確かに、スリランカのエクスポランカ社の当期の業績が前期に比べて振るわなかったこと、またグループの中核会社である佐川急便も厳しい事業環境であったことはネガティブな要因でしたが、エクスポランカ社に関しては、ビジネスモデルや事業構造に大きな問題が生じた訳でもありません。また佐川急便に関しても、これだけ厳しい事業環境に直面しても、大きく落ち込まなかったのは、これまで、しっかりとしたビジネスを積み上げてきたということなのです。DXやロボティクスについての取り組みも同様です。長期的な視点を持った取り組みの積み重ねが、強靭な事業構造を創り上げています。

 ただ、EC需要の拡大も未来永劫続くわけではなく、国内においては人口減少の問題が解決されない限り、市場の縮小は必至です。そこは引き続き見据えてビジョンを描いていく必要があります。昨年も申し上げましたが、海外ビジネスへの期待は引き続き大きく、人材にかかる課題を含めて解決していくことが大切です。

持続的成長に向けた打ち手、取締役会での議論

取締役会での議論にも触れながら、
今後の持続的な成長に向けたお考えを聞かせてください。

鷺坂長美 社外取締役

鷺坂:先ほど少し触れた海外展開やグローバル・ガバナンスに関わる議案は、取締役会でも多く取り上げられており、かなり綿密に議論されています。私自身は、執行に対する監督者としての視点をもって議論に参画していますが、長期的なビジョンを持って、しっかり進めているという印象を受けます。

 DXに関する取り組みにも期待が持てます。DXに関しては、まず当社グループとしての基本戦略がしっかりできており、業務の効率化のみならず、お客さまとのコミュニケーションや、サービス面でのデジタル対応を確実に進めていると思います。ただ、当社グループが進めるDXは壮大で、一朝一夕で実現できるような規模のものではなく、ある程度の時間がかかるのは致し方ないところなのですが、デジタル化に向かう社会全体の流れがさらに加速していく中で、改革を急がなければいけません。こうしたDXへの取り組みは、物流業界が直面する、「2024年問題」の対応にも大きく関わってきます。セールスドライバー等の労働問題の有効な解決策の一つとしても、DXを駆使した労務を含めた輸配送の仕組みを早期に構築していくことが必要です。

 また、先ほど指摘したような社会課題の解決という点では、世界中で取り組みが進むカーボンニュートラルへの貢献が重要です。Scope3として捉えるサプライチェーン全体のCO₂削減のためには、当社グループの長期ビジョンの考え方にも通じる「パートナーとの共創」が不可欠であり、先進的な環境対応に取り組んできた当社グループにとっての大きな課題の一つです。

髙岡:鷺坂さんがおっしゃった環境対応に加えて、持続可能な社会の実現につながる重要課題として、近年は「人的資本」に関する議論が活発化しています。当社グループの長期ビジョンでも、人的資本が成長エンジンです。当社グループの持続的な成長には、継続的な設備投資もさることながら、さまざまな「人」への投資が必要であり、生産性の向上につながるオペレーション人材への投資と、新たなソリューションビジネスを生み出す人材の双方を成長エンジンとして位置付け、積極的に採用・育成をしていく計画を立てています。2023年2月からは、優秀な若手人材を抜擢するチャレンジ制度も始まっています。自身の能力に見合うポストと処遇に配慮することは、モチベーション向上や若手社員の定着にもつながるものと評価しています。なお、鷺坂さんがおっしゃった「2024年問題」もありますし、その後も継続的に人手不足が見込まれるため、高い視点から物流ビジネスを再設計できる人材の確保・育成が急務だと思います。

 人材や人件費に関する議論は、取締役会でも多くの時間を費やしていますが、先ほど秋山さんがおっしゃったような、「長期的な視点で見て、答えを出そうとする姿勢」を、ここでも感じることができました。足元での人件費高騰に関する議論があった際に、当社グループの人材に対して報いていくことを考えれば、この先も人件費は増え続けていくのだから、この1年間の人件費の高騰について論じるだけでなく、継続的な人件費の上昇に耐えられるだけの収益性を確保する必要があるといった趣旨の発言が、栗和田会長からあったことはとても印象的でした。これは全くそのとおりで、アフター「2024年問題」も見据えて、継続的な人件費の増加をカバーできるような収益力の強化と生産性の向上に努めてほしいと思います。

秋山:先ほど鷺坂さんが、海外ビジネスに関する取締役会での議論について触れてくれましたが、私自身、物流ビジネスの経験がありますので、少し補足させていただきます。当社グループの海外ビジネスでは、近年は規模の拡大が顕著となっています。こうした中で、単に国境を越えたECビジネスを東南アジアで展開するだけではなく、近年は大きなフォワーディングの仕事も受けるようになってきています。ECとフォワーディングでは仕事の内容が大きく異なります。この2つの仕事をどう合理的に進めていくかという点が、取締役会での重要な議論として扱われてきました。この議論には少し時間を要したものの、進捗が見られ、今後大いに期待したいと思います。今後のビジネス展開にも期待しています。

 髙岡さんからは人件費に関する議論の話がありましたが、しっかり賃金を上げていくことに加えて、人材をしっかり育成し、将来の幹部に育て上げるための制度設計や、優秀な人材を登用する仕組みは、かなり前から粛々と進めてきているという印象を持っています。次の世代の役員、社長候補を育てていくのはこれからの話になりますが、若い世代が社長候補として現れてくることにも期待しています。これまでの人材育成の成果を見ている限り、そうした期待も持てるようになっています。

新経営体制への期待

2023年6月より経営体制が刷新されました。
どのような評価と期待をされていますか?

秋山真人 社外取締役

秋山:あらたに社長に就任された松本さんは、セールスドライバーも経験されている、当社グループの現場に精通した方です。新たに特命担当として就任した笹森取締役も、佐川急便で現場を長く経験された方であることに、強い安心感を抱いています。私自身も物流の現場を長く経験しており、肌感覚として感じるのは、物流会社のビジネスは、現場のスタッフをしっかり動かす力がないと、うまく回らないということです。これまでは栗和田会長の強いリーダーシップをもって当社グループを成長に導いてきましたが、新経営体制においては、現場のスタッフにしっかり動いていただかないことには、何も始まらないということです。その意味では、物流の現場を良く知る人材を当社グループの経営陣として迎えたことのメリットは大きいと思っています。栗和田会長はこれまで、強いカリスマ性を持ってリーダーシップを発揮されてきましたが、今回の新経営体制における、松本社長と笹森取締役の存在は、全ての現場スタッフにとって、「自分も将来は経営トップになれるかもしれない」という期待の高まりも含めて、大きな希望の光に映り、現場のモチベーションも高まりやすいのではないかと思います。

鷺坂:松本新社長は年齢も若く、また環境省に出向された経験もお持ちで、広い視野を持って精力的に取り組んでいただけるのではないかと期待しています。特に今後、サステナビリティ経営の面でリーダーシップを発揮され、グループ全体を動かしていくうえでは、こうした経験が大きく生かされるのではないかと思います。

 新社長には、特に海外子会社に対するガバナンス強化の面でも、大きく貢献されることに期待しています。今後、収益に占める海外子会社の割合がさらに高まっていく中で、さまざまな立場で海外子会社の課題と対峙してきた経験を生かしていただけるものと大いに期待しています。

髙岡:秋山さんがおっしゃったとおり、松本新社長が佐川急便の現場を知り尽くす方であることは、当社グループの経営においても非常にメリットが大きいと思っています。持株会社と事業会社の関係という点では、持株会社の経営陣が事業会社の現場経験を持たない企業も多いように思いますが、個人的には、そこには少なからず課題があると思っています。

 これからは、セールスドライバーの方々をはじめとして、現場で働く人材の確保が難しくなっていく時代が到来します。その中で、物流の現場が抱える課題をどう解決していくべきか、現場の方々の作業効率や成長意欲を高めるためには何が必要なのかといった点について、勘所を把握する方が持株会社のトップにいることは極めて重要です。その意味で、ご自身が物流現場をよく知ることを、社内外に積極的にアピールしていただければと思います。

 とはいえ、持株会社のトップとして、グループ全体として適正な事業ポートフォリオをどう捉え、どのような経営資源を使い、具体的にどう強化していくのかといった点も、常に考えていただく必要もあります。当社グループが今後、どのような道筋で成長を果たしていくのか。そこに対する意識は、是非強く持っていただきたいと思います。